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あるハイドン・ファンの独白 vol.6 2003/6/25
  第6回オーケストラ・リベラ・クラシカ演奏会に寄せて

  チェロ協奏曲第2番ニ長調は、古楽器ブームが到来する以前にあっては、演奏会や録音で頻繁に取り上げられるハイドンの数少 ない作品のひとつだった。幾多のチェロの名手たちが、古今のチェロ協奏曲の中からこの作品を選んでは繰り返し演奏してきた。

  20世紀の間、この曲のもっとも広く使用された楽譜は、実はベルギーの音楽学者・作曲家のF.A.ヘファールト(ジュヴェール)による編曲版であった。1890年に名門ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社が刊行したヘファールト版は、フルート、クラリネット、ファゴット各2本を恣意的に追加しているばかりでなく、オーケストラの分厚い響きを背景に、独奏者の高度な技巧、あるいはロマン的で陶酔的な歌心を聴衆にアピールするような「聴かせどころ」を随所に散りばめたものだった。解釈によっては、ヘファールト版による演奏がハイドンのスタイルからはほど遠い、単なる見せ物的な作品と堕すこともあったのだろう。

  しかし近年では意識の高い演奏家や音楽研究家たちの共同作業を通して、そうしたロマン主義的な趣味は次第に駆逐され、作曲当時の姿を取り戻そうとしている。20世紀中葉に音楽学者レーオポルト・ノーヴァクがハイドンの自筆楽譜を再発見して原曲の姿が明らかになり、演奏家たちの意識も作曲者の意図の再現に向けられるようになった(ノーヴァクの楽譜とて実は充分なものではなかった。ハイドン独自の記譜法に対する理解不足から重大な誤りを引き起こし、それをカール・トレツミュラーが指摘しようとしたものの、オーストリア国立図書館での上司ノーヴァクの報復を怖れるあまり論文の提出を断念するという醜聞もあった。蛇足ながら。)。

  作曲者が元来意図形での再現を心がける昨今の古楽界の流れにあって、鈴木秀美とオーケストラ・リベラ・クラシカの演奏はハイドンのチェロ協奏曲の再現という点ではその最先端にあるということができるだろう。いうまでもなく、こんにちの古楽界を見渡してもハイドンの響きや語法にはもっとも通じた独奏者兼指揮者とオーケストラの共演なのだから。第3回演奏会におけるチェロ協奏曲第1番の演奏を会場で、あるいは録音で確認された方なら、寄せる期待は小さくないだろう。
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  この演奏会では、今年度のオーケストラ・リベラ・クラシカの演奏会にはめずらしく、ハイドンの作品だけが並んでいる。プログラミングも意欲的だ。そもそもハイドンの交響曲第46番を演奏会の最後にもってくるなど、誰が思いつくだろうか。

  この交響曲は、旋律線の息が短く、唐突に曲想が変わり、大胆な転調が随所にあり、高い緊張が持続されるうちに劇的な表現が随所におり込まれるという、ハイドンの「シュトゥルム・ウント・ドラング(疾風怒濤)」期に典型的な特徴をそなえている。この時期の作品は、数の上では長調作品が圧倒的に多いにもかかわらず、交響曲、クラヴィーア・ソナタ、弦楽四重奏曲などいずれのジャンルでも、短調作品に知名度の高い作品が多い。前述の第3回演奏会でも、同時期に成立した交響曲第44番ホ短調「悲しみ」が選ばれていた。

  それに対し、当時としては例外的な、ロ長調という調性によるこの交響曲第46番では、短調交響曲のように悲劇的絶望感や詠嘆的情感に耽溺することなく、長調の明るい響きと短調の沈痛な響きを微妙に交錯させながら、ハイドンのもっとも鋭敏な表現を実現している。それはベートーヴェンのように勝利へとプログラムされた悲劇性ではなく、エマヌエル・バッハのような詠嘆的な悲劇性でもなく、ハイドンならではの感性と深い思慮が反映されたものといわざるをえない。この曲の終楽章における異常ともいえるような構成は、単なる構成上の遊びで済まない意味があるはずだ。時として短調作品以上に個人的で切実な表現を含む本作品を、鈴木秀美とオーケストラ・リベラ・クラシカがどのように解釈するか。個人的に筆者はこの日一番の好奇心を覚えている。

  「パパ・ハイドン」という言葉あるいはそれが喚起するイメージは、一般愛好家にこの作曲家に対する親近感をもたらすことがあったにせよ、この作曲家の一面を伝えるものでしかなく、本来のハイドン理解には、時として障害にさえなってきた。「時計」や「驚愕」といった作品にある親しみやすさは、ハイドンが大都会ロンドンの一般聴衆に向けた、わかりやすさを演出した結果であって、80年代以前の彼の作品をそうした安易なイメージで片づけることはできない。しかし作品を理解しようとする耳には、オーケストラ・リベラ・クラシカが「主戦場」とするこの時期の作品のもたらす魅力もまた多様かつ意味深く、他に代え難いものがある。この日の最初に演奏される第23番もまたそうした作品のひとつで、ト長調という明朗な調性からは想像のできないような含蓄ある響きやフレーズが数多くあって、これもまたハイドンの真実の言葉を伝える作品になっている。
(飯森豊水)

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