| 第18回カフェのアフター・テイスト
2004/10/11 |
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カフェ・ファンの皆様、 先週土曜日の第18回カフェに来られた皆様、心の底から御礼を申し上げ ます。どんな疾風、雨嵐にも勝って余りある皆様の情熱に支えられ、お陰様で今回もま た充実した時間を過ごすことが出来ました。私、今年は梅雨時のコンサートにも雨が降 らなかったほどで、91年のバッハ組曲ツァー(東京のコンサートが台風の真っ只中だっ た)以来付けられてきた「アメオトコ」の汚名は返上したはずでしたが…今回は「嵐を 呼ぶ男」、いや「嵐に好かれる男」になってしまったようでした。しかし、カフェの間 こそ外は猛烈な雨風でしたが、午前中ピアノを搬入するときや、私がチェロ2台を持っ て到着したときには不思議と雨が止んでおり、また夜のコンサートが終わって皆様が帰 られる時にはすっかり静かになっていました。ちょうど一番ひどい嵐の間、雨風の代わ りにベートーヴェンを聴いていたということです。帰り道、知人の車で通ったがら空き の首都高からは、すっかり掃除された空気のせいでしょう、東京タワーや高層ビルの 数々が殊の外美しく見えました。 さて、今回はピアノとチェロのための変奏曲3曲、ベートーヴェンの作品 群の中にあってはややマイナーなジャンルが課題でした。しかし変奏曲という作曲の形式 そのものはベートーヴェンにとって重要なものであり、ピアノ作品はもちろんのこと、 交響曲にも室内楽曲にも変奏は随所に見られます。チェロの3作品は1796年から1801年 の間に書かれ、二重奏ソナタという新しい演奏形態を確立した若きベートーヴェンの様々 な創意工夫が感じられる秀逸な作品です。前回に続き、今回もまたピアノは清水由紀子 さんにお願いし、福沢宏さんのご厚意により拝借した5オクターヴのワルターと、現代の ピアノにより近い1892-5年のエラールの両方を弾いていただきました。 今回受講された方のうちモダンのチェロはお一人だけでしたが、一般的に この曲をモダンで演奏するときには、ソナタにも増してピアノとのバランスが難しいで しょう (白状いたしますと、私はモダンピアノと共にこれらを演奏したことが一度もあ りません)。音量のバランスだけではなく、音色の溶け合い方などが音楽全体に重要な 意味を持つからです。音の長さ、形などを合わせなければならないのはどんな楽器との 合奏でも同じことですが、それもやはり相手となるピアノによってずいぶん変わってき ます。 どの時代にあっても、変奏曲は多かれ少なかれ一種の知的なゲームです。 これをこう変えると、ここをひっくり返して、ここだけを使って…と、料理人が同じ 素材から次々と料理を作り出すように、作曲家がテーマを「料理」していくアイデアが 楽しみです。ですから、演奏に際してはベートーヴェンの様々な「料理法」が聴き取れ るように、それぞれの声部や音型が明瞭に語られるべきです。 この3曲にも、同じ初期の作品とはいえ、第1番のソナタのような爆発的 エネルギーとも、また第2番のように疾駆する情感とも異なった独特の世界があります。 総じて、私たちが「ベートーヴェン」と聞いて連想しがちな重さや暗さはありません。 もちろんしっかりとした力強さはあり、またピアニスト・ベートーヴェンの名人技を 披露する要素は多分にあります。しかし短調のバリエーションなどで時折顔を出す 深刻さは人生に対する彼の真面目な態度を思わせ、後に書かれる数々の大作の片鱗を 感じさせます。 変奏曲ではしばしば、チェロがピアノを支える低音となるだけでなく、 ピアノと混じり合って和音を作り出します。5オクターヴのピアノはガットを張った 弦楽器の音に似ているので、そのような和声がうまく溶け合うのです。現代のピアノ は5オクターヴに比べると「雑音」の成分が少なくポリッシュされていて、他の楽器の 音と溶け合うことが困難です。張力がとても高い現代のピアノでも、最低音域で最大 音量のときには5オクターヴ・ピアノのように響きがやや撓んで聞こえますが、それは 室内楽には不必要かつ不適当な音量となってしまいます。 チェンバロと比べてもまだまだ一般的とはいえないフォルテピアノ、 一緒に弾くチャンスはなかなかないのが普通だと思います。今回受講された方も経験が 殆どありませんでした。モダンピアノとの合奏ではチェロが大きすぎるということは 殆どありませんが、"5オクターヴ"との場合には簡単にそうなってしまいます。です から、ピアノと書かれていればきちんとそれを守って弾かなければならないわけです。 また逆に、"5オクターヴ"に慣れていない耳にはピアノ・パートがか弱く聞こえて、 自分が必要以上に小さく弾いてしまうことも起こり得ます。しかし音というのは 不思議なもので、小さな楽器でもフルに鳴らして弾いているものは「大きく」聞こ えるものなのです。 もちろん、相手がモダンピアノであっても"5オクターヴ"であっても、 チェロがしっかりと鳴らされていなければよい合奏にならないのは当然です。 ガット弦を張った楽器では、スチール弦よりもっと明らかに、左指の押さえ方、 ポジションと弓の位置関係、角度の良し悪し等が聞こえます。左手が上下移動した とき、弓で弾く場所も共に考慮しなければよい響きは得られません。特にこれらの 曲のように高音域に至る場合にはなおさらです。 「チェロ・ソナタ」やこの「変奏曲」は、その大部分がピアノによって 形成されている音楽です。全体にはピアノがオーケストラのようなものであり、 チェロがその中のいろいろなパートを弾く、といってもいいかもしれません。もちろん、 オーケストラ全体の響きをチェロが彩るときもあります。ですから、ピアノが今 何をしているのか、難しい箇所はどこか、鍵盤の上でどのように手が動いているのか といったことを知っていなければ、よい合奏をすることは困難です。どのような 合奏に於いても、自分が上手に弾いたのに気づかれないのは嬉しくありませんが、 音を間違っても相手が気付かないのはさらに悲しいことだと思いませんか? これからもフォルテピアノ人口と楽器そのものが増えて、これらの曲の 響きや、合奏のバランスについて、さらにはベートーヴェンそのものに対する概念が 変わってくることを大いに期待しています。 さて、次回第19回は第2番のソナタです。初期作品の中では一番演奏 されることが多いように思いますが、ここからも様々な要素を掘り起こして、単に 個人的な感情の流れではなく、説得力を持った音楽作りにはどうすればよいのか、 そしてまた"5オクターヴ"との場合にはどうなるのか、といったことをお話しして いきたいと考えています。いつものようにこのホームページ上でご案内を致します ので、どうぞご期待、そしてまた奮ってご参加下さい。 台風一過、どうぞ皆様よい秋の日を過ごされますように。
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