第13回ガットカフェを終わって
2003/1/20

  ガット・ファンの皆様、

  第13回のカフェにお出でいただき、有難うございました。
  カフェにいらした方にとっては内容が重複するかもしれませんが、お話した内容や感想などを少し書いておきたいと思います。

  今回はJR三鷹駅近くのYWCA武蔵野センターをお借りして行いました。カフェでお話をしましたが、実はこの建物、およそ10年ほど前に若松夏美さんとふたりで「ガット弦を弾こう」というタイトルの講習会を開催した懐かしい場所なのです。その頃はまだガット弦の扱いなどについて情報を得られる場所は少なく(今よりもっと)、何らかの形で自分たちの得た情報を人に伝えることが必要なのではないか、と彼女に相談をもちかけて始めたのでした。諸事情から3回でストップしてしまいましたが、その後数年を経て、今この「カフェ」をここで催せたことは喜ばしいことでした。

  さてカフェでも申し上げましたように、今回の課題であるヴィヴァルディのソナタは、バロック音楽やバロック・チェロに興味を持つ方の多くが、「まあ手始めに」と手にとってみることが多いものです。専門的音楽教育の中では、小・中学生ぐらいの(それもあまりレベルの高くない)生徒が学ぶものという位置付けで、音楽学校(高校でも)に入ってから勉強することはまずありません。ヴィヴァルディのチェロ・コンチェルトも同じく、音楽学校のカリキュラムには登場しません。桐朋学園にいたとき、ヴィヴァルディのヴァイオリン・コンチェルトの編曲をレッスンで勉強していた学生はいましたが、20数曲もあるチェロ・コンチェルトを聞くことはありませんでした。中には度肝を抜かれるほど難しいものもあるというのに!
  6曲セットのソナタは、ヴィヴァルディが亡くなる前年の1740年に出版されたもので、最晩年の作曲であり、生前に出版された最後の作品です。それとは別にもう3曲が筆写譜の形で残されています。天才の晩年の作品を「小学生用」と片付けてしまうのはなんとも罪深い話であります。 (フランスの出版社フュゾー(Fuzeau, ウェブサイトは www.fuzeau.com、英語サイトは http://facsimiles.fuzeau.com/v_anglaise/index_gb.htm ) から全ての資料のリプリントをセットにしたものが出版されています)

  今回はその6曲を題材に、バロックの表現を探ろうとしました。これらのソナタは、それぞれの楽章が一幅の絵でもあるかのよう、また喜劇の一シーンのようにも感じられるものが多く、タイトルが付けられそうなほど描写的な性格を持っています。また当然のことながら、イタリア語で何かを口ずさんでいるようなところもあります。ですから、弓をどうするか指使いをどうするかということのみに汲々としているのではなく、どういう景色や雰囲気、またどんな場面か、と想像力を働かさなければそれこそ小学生用の、単純な音符の羅列になってしまうのです。表現には、音量だけではなくさまざまな色合いが必要ですし、アレグロ楽章でさえ、勢いだけで片付けてしまえることは稀です。

  弦楽器の駒と指板の間、弓でこする部分こそは音色のパレットです。弓の場所、弾く場所、そして圧力・角度・スピードによって、無限大の可能性が得られるのです。もちろん左手の指使いや押さえ方でも音色は変わりますが、色合いや息遣い、口調を変えるのはなんといっても右手なのです。私たちは多かれ少なかれ、「同じ場所を定めた角度でまっすぐ、きっちりと!」弓が往き来するように教えられています。それはもちろん必要なことなのですが、本当は「変えたいとき好きなように変えられるために」そう練習するのです。「型に入って型から出でよ」といわれる通り!

  今回は場所の都合などもあって、「ソナタをチェロ2本で弾く場合」に集中したわけですが、お聴きになった方の印象は如何でしたでしょうか。さまざまな和声の可能性などを包含しつつ、ドラマと色彩に富んだ彼の音楽を単純な二声で作っていくのは、見ているほど簡単なことではありません。もちろん2本だけであっても、さらにバラエティ豊かにすることもできたとは思いますが、こじんまりした場所も幸いして「超微細」表現も集中してお聴きいただき、何とか楽しめたのではないでしょうか?(あつかましい!) 共演してくれた懸田貴嗣君にも拍手を送りたいと思います。
  最後に、今回のピッチを440にしたことについて簡単な説明を載せましたが、もう少し詳しく知りたい方は、新版New Grove Dictiionaryの「ピッチ」の項、イタリアに関する部分をご参照ください。いまやインターネットでも見ることができます。

  さて、次回は第14回。言わずと知れたバッハの数ですので、やっぱりバッハをやるかな、と考えています。無伴奏にするか、誰か上声部の人を頼んでコンティヌオにするか、まだ考えていませんが、また近々このページ上でご案内させていただきますので、お楽しみにお待ちください。

  では皆様、流行のインフルエンザなどに罹らないよう、お元気でお過ごしください。



鈴木秀美

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