ガット・ファンの皆々様、

遅ればせながら、新世紀おめでとうございます。
クリスマスから新年にかけて、何かご挨拶とご案内を書かなければと思いつつ、とうとう時間ができずに世紀を超えてしまいました。皆さま良い『世紀明け』をお過ごしになられたでしょうか。

日本の冬、夏よりは不愉快さ加減が少ないような気もいたしますが、楽器と弦にとりましてはよろしくない、キケンな時期でございます。特に太平洋側の都市では街全体が乾燥しているような気さえいたします。乾燥は、湿気よりもよほど楽器に悪いのです。湿気がひどくても、少し鳴らなくなったり、あるいは弦が切れたりひっくり返ったり、それから膠が剥がれたりするだけですが(もちろん、それは全て気に入らないことではあります)、それは修理可能なことです。しかし乾燥で割れてしまった楽器は、簡単に言えば組織が縮んでしまったようなもので元に戻すことが困難です。下手をすると開いてしまった割れ目に木を埋めてやらなければならないこともあります。特に、薄い横板には気をつけなければなりません。楽器を置いている部屋は、18度から20度ぐらいの温度で湿度は50%ぐらいに保ちたいところです。自分の喉が渇く、鼻が乾燥すると思ったときには、楽器も悲鳴をあげていることをお忘れなく。

新聞や雑誌などでご紹介いただき光栄の極みであります拙著「『古楽器』よ、さらば」は、おかげさまで版を重ねることになり、私はこのような場所、またこれからも続けていくつもりのカフェで、喋ることがあまりありません。実際、何を言いましても『ああ、あそこに書いてあった』と思われるのでは、ジョークの一つも言えません。噺家の皆さんはさぞ苦労なさっておられることと思います。因みに、この本の題名は「コガッキ」よ、と読みます。『え〜、まいど〜おなじみの〜チリガミ交換でございます。ご不要になりました古新聞、「フルガッキ」...』というふうになりませんよう、お願いいたします。実際に音楽之友社他のお店へ、そのようなお問い合わせがあったそうですから。

話すにせよ書くにせよ、はたまた演奏するにせよ(!)、少しは新しいネタを仕入れなければというわけで、日本に帰ってきて以来久しぶりに国外逃亡を果たしました。次回のカフェ直前に戻ってまいります。今回は久しぶりにLPB(ラ・プティット・バンド)の大きなツァーにも参加いたしますので、時間を見つけてお便りができるかと思います。

さて、次回のガット・カフェ、題材はドイツもの、テレマンのD-durのソナタとJ.C.F.BachのA-durのソナタを皆さんにご準備いただきたくよう、以前にご案内させていただいたと思います。その楽譜ですが、どちらもベーレンライター社から現代譜が出てはおりますものの、それだけでは何とも味気ない。そこで、BCJの事務所にご連絡いただければオリジナルの楽譜のコピーをお送りできるように準備いたしました。テレマンの初版は1728年、『忠実なる音楽の師』という曲集に、またJ.C.F.Bachは、C.P.E.Bachが1770年に編纂した"Musikalisches Vielerley"という曲集に含まれています。曲集全体には実にさまざまなものが収められていますが、事務所でお送りできるのはチェロ・ソナタの部分だけでございます。

夜のコンサートに何をお届けすればよいか、と長らく悩んでおりましたが、以前にも登場いただいたチェロの高群輝夫君、そしていつも最良の音楽的「話し相手」となってくれる小島芳子さん、それにもう一人の芳子、つまり私のやっているクァルテット『ミト・デラルコ』のヴィオラ奏者、森田芳子さんをお願いすることに成功しましたので、テレマンとJ.C.F.バッハのソナタの後にA.クラフトのB-durのソナタ、そしてベートーヴェンの『眼鏡』と呼ばれるヴィオラとチェロのデュエットをご紹介したいと思います。ご存知のように、クラフトはエステルハーツィの宮廷に長く勤めてハイドンを助け支えた著名なチェリストで、このソナタは、(演奏の出来如何に関わらず)彼が作曲をハイドンに学んだこと、ハイドンが彼からチェロの技術を「仕入れた」こと、そして彼がどれくらい弾けた人かということが良く分かるものです。ベートーヴェンの『眼鏡』は、なぜそう呼ばれるのか、誰のために作曲され誰が弾いたのか明らかではないようですが、技術的にかなり高度な1楽章と、ユーモラスなメヌエットという独立した2楽章だけが知られています。

今年のカフェ、今回だけが金曜日と本当の週末ではございませんが、どうかお友達もお誘い合わせの上、オンガクを考える時間を楽しみにいらっしゃいますようお願い申し上げます。なお、9月15日に予定しておりましたカフェは、『敬老の日』に敬意を表して10月6日に変更いたしましたので、よろしくお願いいたします。

腸珈琲亭々主

第5回
の集い
2001年3月2日(金)14時より21時(コンサートは19時より)
ホスト 鈴 木 秀 美(すずき・ひでみ、チェロ)
ゲスト 小島芳子(こじま・よしこ、チェンバロ)、森田芳子(もりた・よしこ、ヴィオラ)、高群輝夫(たかむれ・てるお、チェロ)
カフェの場所 東京オペラシティ近江楽堂(おうみがくどう)内 (新宿区西新宿 3-20-2 3F 電話 03-5353-6937)
テーマ テレマンのD-durのソナタとJ.C.F.BachのA-durのソナタ
メニュ 上記のソナタのほか、A.クラフトのB-durのソナタ、ベートーヴェンの『眼鏡』と呼ばれるヴィオラとチェロのデュエット
参加料 演奏で参加される方 3,000円 聴講を楽しまれる方 4,500円 コンサートのみ楽しまれる方 6,000円 いずれも入退場自由

ガット・カフェの記録