Café Talk
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段々と肌寒いときが多くなってまいりました。皆様いかがお過ごしでいらっしゃいますか。 ご存知のとおり、バッハ・コレギウム・ジャパンはメルボルンに行ってまいりました。バッハ2000というフェスティヴァルに参加するためで、2種類のカンタータ・プログラムを二晩、そしてマタイ・ヨハネ両受難曲、全部で4公演を行ない、11月5日に無事生還いたしました。 弦楽器奏者として、このようにヘビーなプログラムを続けて演奏するときに心配になりますのはもちろん、弦のもち具合であります。私個人といたしましては、前回ヨハネを弾いたのが、あのサントリー・ホールでの世界生放送公演でしたから、途中でまた弓の毛が吹っ飛びはしないかという心配も若干はございましたが、今回は何事もなく無事終了いたしました。 演奏というものは、フツーに聞こえる程度に保つだけでもいろいろと苦労がございます。ましてや、このガット弦という御し難いヤツを使っておりますとさらに苦労が増えます。もちろん、プロとしてやっているわけですから人に見えない面があるのは当然のこと、泣き言をお聞かせしようというのではありません。苦労が多い分満足も大きい、と申し上げたいわけです。 ようやく、少しずつですが、自分で直接ホームページに書き込むことができるようになってまいりましたので、時々私たちの苦労話や笑い話などをお知らせしようかと思います。見えない苦労の解決法は、ひょっとすると皆様のお役に立つかもしれません。それにカフェには話がつきもの、つまらぬ話などがなくてはカフェではありませんからね。題に書きました言葉は『茶飲み話』と訳します。 さて、ステージという甚だよろしくない環境では、弾くにつれて弦の湿気の含み具合がいろいろと変化します。ステージがなぜよろしくないかと申しますと、まずは照明による熱。私たちオンガクカはいつも、大抵27度は下らない『常夏』の環境で仕事をしています。いや、もしホールの照明がフルになりますと簡単に30度ぐらいになってしまいますから、いつもお願いして下げていただいて、やっとこの温度なのです。 次に湿気。これは温度によっても変わりますが、往々にして乾燥しすぎのことが多いのです。東京の冬はもう、『〜砂漠〜〜』と少々古い歌を唸りたくなるぐらいの乾燥で、場合によっては楽器のケースを開けることさえ拒否したくなるぐらいのものです。今回のメルボルンではそこまでにはなりませんでしたが、それでも受難曲をやったコンサート・ホールは40パーセント少々、これでは乾きすぎです。楽器のためには乾燥しているのがよい、と時々思われているようですが、これは間違いで、しかも危険です。というのも、乾燥しすぎると木の繊維が縮んで割れてしまい、修理も困難だからです。今回カンタータを演奏した教会では逆に、点けられていたガス・ストーヴ(向こうはこれから夏になろうとしているところで、まだ寒かったのです)のせいもあって湿気が多すぎました。 そして最後に風、こいつがとんでもないクセモノです。大体、ホールのように大きな空間で何も風が起きないことは殆どあり得ないのですが、これが時にいろいろと悪戯をします。と申しましても、別に女性奏者が急にモンローのようになったりするわけではありませんが、風の一吹きでスカートならぬ楽譜のページがめくれるのはもちろん、調弦やチェンバロの調律がすっかり狂ってしまうのです。 今回のホールでは、暑さはそうひどくなかったものの乾燥しすぎの条件で、受難曲など長時間弾き続けておりますと、裸ガットは湿気をより多く含んで下がり、低音の巻き線は乾燥と高温のために上がります。それを見込んで、途中で押したり引っ張ったり微調整をしながら弾いているわけですが、そこへ空調の風がふわ〜っと来ますと、裸ガットは表面だけが急に乾燥し、巻き線は冷えますので、もうどうなるのか予測がつかなくなってしまいます。それも、忙しく弾き続けている間の計算ですから頭がこんがらがってしまうのです。しかも、客席側からステージに風が来るということは音が向こうへ届きにくいということですから、弾きながら情けなくなってしまうのです。 さて、ヴァイオリン・グループは人数が多くて高音域ですから、音程も目立ちますし大変ですが、コンティヌオ奏者としてはもう一つ、鍵盤楽器とのお付き合いがあります。温度や湿度でチェンバロとオルガンはほぼ逆の方向に動くのです。弦と管楽器も逆になりますが、その中で、オーケストラの合奏に続いてレシタティヴォ、などという場合、それぞれの動きを読んでいないと大変なことになります。もしもこちらが正しかったとしても、和音を伴う鍵盤楽器が必ず『正解』に聞こえるからです。もちろん、よほどひどく狂ってしまったときには中断して調弦するしかありません。 コンサートで皆さんもご覧になっていると思いますが、優れた調律師は、コンサート中の変化を、ホールの条件はもとよりその日の天気なども含めた読みをもって調律しています。チェンバロ・オルガン両方と「びったり」お付き合いするのはコンティヌオ奏者だけですから、調律師との連携はとても重要です。今回は、いつも私たちのコンサートの面倒を見られるうちの一人、梅岡さんが同行してくださいましたので心強いこと百人力でした。 というわけで、『もう、よかったんだけどぉ、タイヘンだったんだからぁ』なんていう感じの話をお聞き、いやお読みいただきました。 さて、来る16日の天気やいかに、それによって奏者は泣くか笑うか、悲喜こもごも。カフェでは、単にバッハをどう弾くかだけでなく、ステージ上での実践的知恵や戦略も、もしかするとお教えしないと決まったわけではないかもしれないけれどしかしまあそれはなんとも...当日の顔ぶれとお天気次第でございます。ご多数のご来場をお待ちしております。 店主敬白 |